<予防と健康レポート>

1、はじめに

 ストレスの多い現代社会において、精神疾患が大きな問題と取り上げられている。特に団魂の世代と呼ばれる減座員59―60代前半の人々の多くが会社型人間として組織に従属する傾向が強かったため、退職後の目的の喪失や地域社会に溶け込みにくく、うつ状態に陥るケースも多い.以上の問題点を踏まえてレポートを考察する.

2、キーワード

(メンタルヘルス・性格傾向)

3、選択した論文

T:慢性うつ状態を呈する患者の性格傾向に関する研究

 著者:樋之口 潤一郎、矢野 勝治(著者多数により代表者のみ列挙)

U:ストレスとメンタルヘルス―老人のストレス

 著者:福永 知子、武田 雅俊

4:@選択論文Tについての概略

 現在うつ患者に対する抗うつ剤による寛解が見とめられないケースは、全体の3割に及ぶ.この3割のうち、慢性うつ状態が持続する気分変調性障害は特に抗うつ剤の効き目が悪い.この対象群は「入院森田療法を施行した気分変調性男性患者13名の臨床的特徴」というパイロットスタディを行った際、回避・不安・強迫傾向などの性格的特徴が報告された。これに基づき、慈恵医大第三病院精神神経外来患者20−65歳までの男女16名を対象(対象疾患は、DSM−Wにて大うつ病エピソードを満たした2年以上の効かん抑うつ症状を呈している慢性例、大うつ病エピソード部分寛解例、気分変調性障害患者もしくは、2年以上慢性ストレスによりうつ状態を呈している適応障害患者を平成17年1月―4月までの途中経過を観察したものである。)に対し、@心理検査(SCID(1軸のみ)にてDSM-W診断後、HAM−D(ハミルトンうつ病尺度)を施行しうつ状態を把握する  A患者のうつ病発症前の社会適応程度判定のため社会疫学的データ(就業状況や対人関係等)を収集し、患者の対人関係能力や生活能力の良否判定を行う。B本研究の目的である慢性うつ状態の背後にある性格傾向を見るため、外来でNEO―PI−R(revised neo personality inventory)と完全主義傾向を抽出するためMPS(multidimensional perfectinism scale)を行い、発症以前の元来の性格傾向を把握する。(この際、うつ状態のstate effectを考慮する)以上の目的に対しての結果を下図に示す.

 

 

 

うつ状態寛解群 

 

 

 

 

性別

年齢

診断

 

 

ハミルトン得点

MPS合計得点

46

双極性障害U型

 

1

108

52

大うつ病性障害

 

4

48

65

小うつ病性障害

 

1

93

57

双極性障害U型

 

3

149

57

大うつ病性障害

 

2

120

52

大うつ病性障害

 

2

77

平均値

54.8

 

 

 

1.8

99.17

 

慢性うつ状態群

 

 

 

 

 

性別

年齢

診断

 

 

ハミルトン得点

MPS合計得点

55

双極性障害、大うつ病エピソード

10

83

54

気分変調性障害

 

10

114

32

大うつ病性障害、パニック障害

10

146

36

大うつ病性障害

 

15

119

27

気分変調性障害

 

12

103

42

大うつ病性障害

 

11

139

25

大うつ病性障害

 

21

108

46

気分変調性障害、アルコール依存症

9

118

38

大うつ病性障害

 

8

132

60

気分変調性障害

 

13

118

平均

41.5

 

 

 

11.9

118

 

 以上の結果は、あくまで中間報告に過ぎず、統計学的有意差を報告するには不充分ではあるが、4点の考察を著者は導き出している。@)慢性うつ状態にだけ気分変調性障害が存在することA)慢性うつ状態にだけ気分変調性障害が存在することB)慢性うつ状態群の平均年齢がうつ状態寛解群より低い事C)寛解群は、初期治療である抗うつ剤と休息により比較的早期改善がみられたため、寛解群の性格傾向は均質でメランコリー親和性格や執着気質の近縁性格傾向であると考えられるが、慢性うつ状態群は性格傾向の不均質だけでなく、世代別の価値観の相違や社会的背景の影響が強く出ていることが想定できる.

以上の4点の考察から、著者は本研究の展望を以下のように述べ、締めくくっている。

 @慢性うつ状態患者の性格傾向の多様化に触れると同時にその背後に類強迫傾向の存在がみとめられる.(笠原喜、木村敏:うつ状態の臨床的分類に関する研究:精神神経誌;77−10,715−735,1975)

 A遷延化したうつ病患者の性格傾向に「かくあるべし」という完全主義的な姿勢の存在について触れ、この修正がうつ状態遷延化改善の一助になりうる(北西憲二、中村敬:遷延化うつ病患者に対する精神療法―森田療法を起点とし―精神医学31:225−262,1989)

に基づき、一部の気分変調性障害患者には、完全主義傾向の存在が「うつ」を慢性化させていると考えられるため、完全主義尺度を用いて寛解群と比較した際に統計的に有意差があるかの有無を検討する改善余地があるとしている.

 

4:A選択論文Uについて

 日本の高齢化率(65歳以上人口が総人口に占める割合)は欧米諸国とほぼ同水準であるが、平均寿命の伸長や低い出生率を反映して、類を見ない速度で老齢化が増加している。人間の適応能力のスピードを超える現代の科学技術の進展や急激な社会変動が高齢化にとってストレス要因となっている.そのストレスの原因には、1)老化2)知的機能3)感情4)情動5)性格変化の5つがあげられる。

1)については、「老化」とは身体・心理社会的にも「喪失」で特徴づけられるもので、高齢者は家庭や社会システムの変化をストレッサーとして受けやすい.このストレッサーの性質を身体的・精神的要因に分類し、加齢による変化を踏まえた上で検討すると、中高年から次第に身体的要因の関与が増加し、老年期にはそれが著しくなる.身体的要因は主に病気に罹患することが高齢期における最も大きなストレッサーと考えられるが、経験により現実的・精神的動揺を回避するスキルを年齢に応じ習得しているのも高齢者の特徴である.

2)については、物忘れ・度忘れは自身の知的老化を自覚する現象の、不安を伴って心理的ストレスとして作用することが多いが、一度にたくさんの事を覚えたりする流動性知能は低下しても、言葉の理解など経験・学習によって培われる結晶性知能は老年期がピークをを迎えるため、このことを明確に伝え、ストレスの減少をうながせばよい。

3)・4)・5)については、高齢者では生存意欲と関連した生命感情が低下しやすく、充足感・爽快感の程度が減少しやすく、能動性や積極性が減退しやすく、「老い」の自覚を増長し、抑うつじょうたいをきたしやすくなる。また、性格の硬化により社会不適応の傾向が見られるとストレスを蓄積する原因となる。このため、高齢者を取り巻く周囲の環境調整と高齢者の能動的社会適応促進が必要である.

5、まとめ(ビデオ・論文を踏まえた上での考察)

サイエンスZEROを見た上で考えることは、情報多寡であるこの現代において、ストレス要因は確実に増えつづけている。この世情の中でどう、ストレスを科学で解明するかがストレスを原因とした疾患への真正直なアプローチではないかと考える.ストレスを原因とする疾患は、論文に挙げられたようにうつ症状が主に取り上げられうが、他にも高血圧・不整脈といった多岐にわたる疾患が背後に存在する。また、主な疾患であるうつ状態も正確な目安、寛解の指標となるものが必ずしも客観性に富んだものであるかといえば、そうとも限らない.DSM-Wにしろ、HAM−Dにしろ選択肢に、社会性・適応性といった人の主観が介入する指標が組み込まれているため、診断する側の人間性・社会性・万能性といったものに頼らざるをえない。そんななかで、アドレナリンの分泌を唾液のアミラーゼで測定するといった新しくかつ科学的な解明方法も徐々にではあるが、研究し成果をあげてきている.ただ、成果の出る診断方法として確立されるまでには、まだ時間がかかると思われる.その中で、私が考えるのは、一次予防である集団検診・人間ドックの受診機会を増やすために、国・市町村から補助を促すことである.現実、足立区の事例では、@生活習慣病予防健診:40歳以上(年度末年齢)の区民は、無料の健康診断(胸部]線、血液・尿検査・血圧等)が指定病院で受けられ、65歳以上の受検者に対しては生活機能の評価が加わり、要介護者の早期発見予防を行う等、自治体の努力が成果をあらわしている地区もある.地域差によってすべてをこのシステムでというのは不可能かもしれないが、公衆衛生学の見地から立っても、早期発見・早期予防を促す必要性があり、ストレッサーの弱い人へのストレス疾患予防の早期対処にも自治体からの補助があれば、構えることなく患者予備軍になりうる人たちも気軽に自己チェックできるかと思う.

6:感想

 今回レポートを書くにあたり考えることは、ストレスは兎にも角に受けて側の気持ち次第でアップにでもダウンにでもなるものなのだということです.そのためにも、科学的な手法でストレスを解明することで、正しい診断の指標を早期に実現することが、うつ疾患への正当なアプローチであり、治療している人にとっても現在のなんとなく改善した状態よりも、データを示すことで納得のいく治療結果を伝えることになるのではないかなと思いました.人間の情動は脳の扁桃体と密接な関係があるため、この分野の解析が早く進めば、情動のみならず、記憶関連の海馬にも一つの答えが見えてくるとおもうので、早く進歩して欲しいと願うばかりです.